阿部謹也「ヨーロッパを読む」

1995年に著者がこのような講演録を出版しているとは知りませんでした。(石風社)内容は、著者が生涯を通して追求したテーマについて、出版社が主催した10年にわたる連続講演会の内容で、親しみやすい内容で若い人にも阿部さんの入門書としてお勧めしたい内容です。この石風社というのは、福岡にある出版社で、主催者はアフガンで活躍されている中村哲医師を支援するペシャワール会の中心人物とのことであり、阿部さんもその会員のようだったようで、中村氏の書評もあるようです。最近では養老先生が毎日新聞中村哲さんの新著へ熱いオマージュを捧げていたことが記憶にありますが、いろいろの人々の精神のリレーというものを感じさせます。
 阿部さんの「ハメルンの笛吹き男」が現れたときは小生は大学生でしたが、平凡社瀟洒なデザインに包まれた西洋中世史の思わぬ世界に興奮したものでした。その後中世賎民や世間論へと学問の成果を世に問われためられた著者が若くして亡くなられた時は驚いたものです。できれば大学学長などを勤められずに著作に専心していただきたかった気がします。こういう「学問と人」を感じさせる人が少なくなりつつあるのは嘆かわしいことです。