土光敏夫の蔵書

中曽根内閣の行革臨調会長として活躍された元東芝社長の土光敏夫氏の生活ぶりは、NHKが特集として番組をつくり、何度も再放送され、評判となった。確かに普通の民家に住み、早朝に起きてお経を読み、めざしを食べる生活は、昔の日本人そのものという感じがして懐かしい気がしたが、私が気になったのは、居間二間の間にある粗末な書棚に中央公論社の「世界の名著」が10冊ばかり並んでいたことだ。10冊ばかりと書いたが、もっとあったかも知れず、その個々の本のタイトルまで見えなかったのだが、飾り気のない居間の
書棚にそれとなく並んでいたのが、かえって強烈な印象を私に残した。
 土光さんはガスタービンのエンジニアであり、理系・文系という[二つの文化」的にいえば、理系そのもの方であったかと思うが、日常生活で「世界の名著」に親しんでおられたようで、世代はまったく異なるが、同じ時期にしこしこと一冊ずつ同じシリーズを読みつつあった私は、「同じ種類の人間がここにいる」と妙な連帯感を感じた。
 この番組での「めざし」のことを書く人は多いようであるが、「世界の名著」のことを書いている人は
見たことがないので、ここに記しておく。