吉本隆明の経済論

黒古一夫氏のブログに吉本隆明の経済論の検討が必要、とあって、その例として「重層的な非決定へ」の中に吉本氏が書いている現状認識がおかしい、というのがあったので、昔読んだ同書を取り出して探してみた。
 例の埴谷雄高とのコムデギャルソン論争のやり取りの中で、吉本氏は以下のように言っている。
「日本の賃労働者が週休3日制の獲得に向かうことは時間の問題であると考えます。潜在的には[現在]でもそのことは自明なのですが、ただ貴方や理念的な同類には、思考の変革が困難になっているだけです。」P68
 また、この文章の前の方で、次のように述べている。
「やがて[アンアン]の読者である中学出や高校出のOLたち(先進資本主義国の中級または下級の女子賃労働者たち)が、自ら獲得した感性と叡知によって、貴方や理念的な同類たちが、ただ現在があると思い込んだ旧いタイプの知識人を恫喝し、無垢の大衆に誤びゆうの理念を植えつけるためにだけ行使しているまやかしの倫理を乗り越えて、自分たちを解放する方位を確定してゆくでありましょう。それは「現在」すでに潜在的には、招来されつつあると私は考えております。」
 そして、
「それはいつ顕在化されるのでしょうか?少なくとも理論的にはその日付を指定することが可能です。それは先進資本主義「国」の賃労働者が、週休三日制を超えたときからだと思います。」
 
 これを見る限りでは、吉本氏は生産力が上がって、週休三日制が可能な段階になったと見ているようであるが、最初に読んだときは正直言って強く違和感を感じた。確かにその後フランスで週35時間労働の法制化があったが、国際競争力がなくなり、修正してしまった。
 この労働者が、旧来の枠組みでしか考えられない知識人を乗り越えていくというのはその通りだと思ったが、この週休三日制については、あまりにも楽観的だと思うし、その意味では黒古氏の指摘にも同意できる。