現代思想増刊「加藤周一」

久しぶりにフランスへ行って帰ってきたら現代思想7月臨時増刊号総特集「加藤周一」が出ていた。表紙は加藤氏が精悍な時の写真で、お別れの会のときの晩年のものより良い。まだ全部読んでいないが、次のような文が記憶に残る。
まず、海老坂武「私の中の加藤周一
加藤の社会主義に対する発言について。「氏はリベラル知識人ということになるだろうが、長いあいだ社会主義のシンパであったと思う。しかし、彼の描く社会主義像はプラス面においてもマイナス面においても鮮明でなく、とりわけソ連に対する位置取り中国に対する位置取りも曖昧である。社会主義にたいする幻滅があったら、いつ、どのようにしてかを率直に語ってもよかっただろう。」
また、1968年についての発言について、プラハの運動については、共感をもって説得的に発言しているのに、フランスの5月反乱についても中国の文化大革命についてもほとんど語っていない、としている。
 確かにこういうところが保守派から加藤氏が攻撃されたところでもあって、その立ち位置がはっきりしない時でもあり、こういうこと点をはっきり指摘する海老坂を評価したい。
 一方、成田龍一小森陽一の対談が載っていて、相変わらず小森は時々自らのイデオロギーに引きつけて変なことをいう。
「加藤さんの文学史は文学のある種の生成論というか、どういうふうにしてこのような文学が現れるに至ったのかというところを、日本の一つ一つ時代における言語的文化的状況が、中国の文化とどういう風に関わり、その関わりの中心部分にた階級がどういう階級で、周辺はどうだったかときちんと押えていたことが私にとって重要でした。文学史を権力的な抗争、ヘゲモニー闘争の一部として描き直していく。そういう意味では私の知らなかった日本史が、ここから見えてきたという印象です。」

海老坂武とは異なって小森・成田の両氏には加藤周一文化大革命についての説明は明快だったらしい。
「小森 文化大革命に対する同時代の様々な曲折があったところで、あの中で何が起こっていたかについて、世界史的視野で、同時に冷戦構造的なシステムの概念は絶対に使わないで分析する、というスタンスが衝撃的でした。」
「成田 加藤さんの文化大革命論は、現在読むものにとっては異論もあるでしょうが、ここで加藤さんが言っているのは、スターリニズム批判以後の社会主義国の有り様を前提とした議論です。・・・・・・中国の動きへの大方の困惑に対し、加藤さんは明快な解釈と態度をとっていますね。」

あとはとりあえず頭に残っていること。
・なんで竹内好に関しての文章が4つも掲載したのだろう。
・三浦信孝さんが、加藤周一の文章に最初に触れたのは筑摩書房の国語の教科書であったとある。小生も高校ではこの会社の国語の教科書であったが、この教科書のレベルは今思っても高かったな。森まゆみさんもどこかでこの筑摩の国語教科書のことを書いておられたが。
・鷲巣力さんによると林達夫がある出版社社長に宛てた「憤激書簡」があるらしい。これは著作集の「書簡」に収められていないようで、関係者は鬼籍に入っているだろうし、ぜひどこかで公開してほしい。