穂積生萩「折口信夫」虚像と実像

こういう本は教えてもらわないとまず読むことはないので、少しでもご紹介すべく、図書館で
借りてきた。(勉誠社、平成8年)この本は文庫化されないだろうから、以下に。
 
三島由紀夫賞をとり、最近筑摩から文庫本可された松浦寿輝折口信夫論」が何箇所か話題になっている。鈴木亨、米津千之氏との鼎談。
・「松浦寿輝氏はもっと文章が極端でして、さっきみたいなわけの分からん事の中に、折口の性生活のところが、わかるやすい文で出てくる。江藤淳さんは『著しく卑俗な匂い」と評していますし、石原慎太郎氏は「なにかの弾みで受賞してしまった」と評しています。」

共産主義者中野重治が折口の本質をみて好意的に評していることに比べて
 「(松浦・諏訪の)二人とも折口は権力の天皇制、折口天皇だと思っている。民のことは一顧もしない苦しめるだけのいやな奴で、それにひきかえ柳田は、という論にもってゆく。」

・「松浦氏は、加藤・岡野の講義は折口の口移しで、権力をかさに、門弟の自由を赦さず、それと天皇制を結びつけて考える。思わず失笑してしまった。」

・「松浦さんに私、何を根拠に折口と天皇を結ぶのか聞いてみたいです。古代研究を読破なすったなら、出雲・出石の神宝から、説話まで天皇家が奪ったと書いてあった筈です。」

その他いろいろなゴシップがあるのだが。
「(「私の折口信夫」)出版に際して、「池田(弥三郎)さんを通さない折口のものは一切おことわり」と、あちこち断られました。講談社さんは「出る前に池田さんに踏み潰されるかもしれませんよ」と、弾きうけてくださいました。本当に忽ち踏み潰されました。」

松浦はこういっているらしい。
「折口は学者である詩人。やはり詩と学問の両立を目指す私にとってライバルであり、一度はたたいておかなければならない対象だった。」

戦争末期に書物を信州へ疎開しようしたが、折口は「そんな遠い所へ持って行かれては物の役に立たない。かといって焼けるのも口惜しい。それならいっそ読んでしまおう」といって、夜通し寝ずに中国の原書のような虫眼鏡の漢字が詰まっている十数巻を幾日かで読み終わり、疎開したという。

その他、柳田國男との関係、キリスト教への関心等、興味深い話あり。

戦後、折口の出石の家の飾り気のない2階の部屋には、ジオットの小鳥説法の絵が掛かっていたという。