東大駒場騒動余聞

今時の学生にこの事件のことを話題にしてもどれだけ知
っているかだが、事件の関係者にとってはそれなりに
想いがあるらしい。
「早いもので、私が西部劇に巻き込まれる形で駒場
赴任してから四半世紀も経ち、退職を迎えることになった。
ここで言う西部劇とは、私と共に赴任するはずだった
タレント学者の人事が頓挫したことに憤って辞職し、それを
彼なりに劇場(戯画)化して出版し、かなりの話題を呼んだ
教授の方の名前にちなむものである。一九八〇年代の初めに
旧西ドイツから帰国し、当時の日本のニューアカと称する思想が
島国日本だけでしか通用しない(今日の言葉でいえば)
ガラパゴス化の産物に過ぎないと思っていた私としては、この
三文劇を苦笑しながら受け取るしかなかった。」
(山脇直司〈駒場をあとに〉西部劇から四半世紀の想い出と
所感 東京大学教養学部報554)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/554/open/D-5-1.html

ところで、1988年、駒場の基礎科学の杉本大二郎研究室にいた
伊藤智義氏によると、「相関社会学分野のある教授がこの採用に
疑問を持った。そして畑違いの杉本に相談した。「これは彼の
著書なんだけれど、ぼくにはさっぱりわからないんだ。杉本さん、
ちょっと読んでみてくれないか?」それは経済学の本ではあったが、
数式がちりばめられていて、その教授は、その数式の意味がわから
ないと言った。杉本はその本を読んでみた。「美文」だと思った。
しかし、そこで使われている数学については納得がいかないものが
あった。杉本は、そのことを教授会の席で話題にした。学生時代に
経済学に夢中になっていた杉本の言葉は説得力を持った。」
「辞職後、西部はその内幕をマスコミに公表し、駒場の教授会を
非難した。それに対して杉本が反論。「朝日ジャーナル」誌上で、
社会科学についての激しい論争を繰り広げることとになる。」
(「スーパーコンピューターを20万円で創る」2007集英社新書
この話題は伊藤氏が師である杉本大二郎教授のそれこそスーパー
振りを示すエピソードとしてこの新書に出てくるのであるが、
「相関社会学分野のある教授」とあるのは中沢新一採用反対急先峰で
あった折原浩だろうか、また、「経済学の本」で「数式の意味が
わからない」とあるが、この段階で中沢は経済学の本は書いておらず、
数式のある本もないのではないか。これは後に朝日ジャーナル誌上で
杉本が問題にしたフラクタルの概念の理解についての質問ではない
だろうか。
当時伊藤氏と同じ駒場の杉本研究室にいた牧野淳一郎さんのブログ
(牧野の公開用日誌)にもこの話題が出てきて、杉本氏から中沢の本を
見せられ、どう思うか問われたが、あの人たちの理解はこの程度のもの、
というような返事をした、とあったように記憶している。