吉本隆明講演会質疑討論

上村武男「吉本隆明 孤独な覚醒者」(白地社2013)に1967年11月21日に
國學院大學で行われた吉本の講演会とその後の質疑討論が掲載されている。
 著者は当時学生でこの「人間にとって思想とは何か」の演題の司会者を
やっており、吉本とは学生時代から付き合いのあった人で、この本の中でも
柄谷行人と3人で学生時代に千駄木の吉本宅近くのうなぎやでご馳走された
ことも出てくる。また雑誌「試行」への寄稿者でもあり、吉本没後1年後に
如水会館で開催された「吉本隆明さん 逝去1年の回」でスピーチをした人
でもある。
 この時の講演の内容自体は吉本隆明前著作集14講演対談集(勁草書房)に
あるが、興味深いのは講演後の吉本と会場の学生とのやり取りで、当時の
政治状況や学生気質とがうかがえる。学生Aから学生Iまで言語論から国家論
大衆運動の位置づけまで質問していくのだが、段々白熱してきて最後には
喧嘩ごしになってしまう。
学生E: 現実的にね、社共的な階級闘争というものがあるわけでしょ?
吉本:そうかなあ、ぼくはないと思いますね。
学生E:大衆が一定の契機をつかんで立ち上がったとしてもね、ただ単に
反体制的な行動しか出来ないんですよ。
吉本:何、何、反体制的な、なに?
学生E:あんたはな、大衆の反体制的な後退的な意識に依拠しているんですよ。
吉本:何言っているんだい、ぼくは少しも依拠なんかしてないよ。
学生E:あんたはね、大衆はいつか立ち上がろだろうと・・・
吉本:いや、そんなこと言っていない。何言ってんだよ、きみは。よし、
やろうか。(大笑、吉本氏、椅子からやおら起ち上がり、背広を脱ぎ捨て、
腕をまくる)
学生E:現実的に社会党の運動がある。そこでね、われわれはそれを実践的に
突破していかなければならない。あんたは実践的なものを見失っちゃって。
吉本:何言っているんです、あなた。
学生E:何を、どのように大衆を一定に統一するということね、そういうことを
一切かなぐり捨てた時点において・・・
吉本:何言っているんだ、何がかなぐりすててだい、いつかなぐり捨てたんだい。
よし、やろうじゃないか。

 この後、安保後のブントの評価とか、について数名とやり取りあり、最後には
双方馬鹿扱いして、司会者が困惑しながらまとめて終わっている。

学生H:ようするにマスターベーションにすぎないじゃないか。
吉本:何をいっているんだよ。何いってやがんだ。
学生H:何だよ。
(この後、場内騒然となり、吉本氏と数名の学生のあいだにケンカ腰の激しい
口論があったが、多くの発言が聞き取りがたい)
吉本:読んでいるか、おれの書いた書いたものを。
学生I: そんなものいちいち読んでいられますか。
吉本:怠け者だよ、君は。要するに。
司会者:みんな、席に戻ってください。
学生H:何だ、自分のものを読めなどと居直って。
吉本:馬鹿だなあ!何が居直ってだい。

 この時の吉本の対応については、後に別のところで吉本自身が難癖をつかられたら、
やってやろうじゃないか、と対応してきた、という意味のことをいっていたと思う。
じゃないか、と