白を黒という谷内正太郎

ロナルド・ドーア「幻滅」(藤原書店2014年)P222に次の
エピソードが紹介されている。
 安倍首相側近の谷内正太郎元外務政務次官が2013年1月11日
政策研究大学院大学のフォーラムで、安倍外交の全面的
展望について1時間講演したときに、ロシアと北方領土問題を
棚上げして2対2会議を開始したことに対して、ドーアアメリカからの
要請で中国封じ込めのために政策転換をした、と想定し、
「大きな外交転換のように見えるのだが、何故触れられなかった」
と聞いた。
谷内の返事は「包括戦略と関係のない、友好関係を築くひとつの試みで、さほど
大きな出来事ではなかった。中国とも2対2会議に向こうが乗り気であった
ら、いつでも応じます。」というものであって、ドーアはその後次のように
書いている。
「やはり、政治家で成功するのには、白を黒と平気で言えるたちの人でないと、
務まらない。」
 さて、その「白を黒と平気で言えるたちの人」について、7月号の「文学界」の
悪名高い?特集「反知性主義に陥らないための必読書」で谷内国家安全保障局長への
聞き書き「外交の戦略と志」を持ち上げている東大名誉教授の山内昌之である。
山内は
「日米同盟だけに依存し、日中友好を題目のように唱えていれば済む時代は
終わった。集団的自衛権が正式に容認されようとしている現在日本人も新たに
変わらなくてはならない。」と相変わらずのご託宣をのべ、われら無教養な
国民を𠮟咤激励する。ご本人はイラク戦争アメリカに騙されてやれやれと
煽ったことの反省は全くないのである。

追記
 山内の文章に富山の田舎で育った秀才が国家の行方を慮る能吏になったことを
たたえているが、この谷内という男も今安保保障法合憲論を唱えている西修駒沢
大学名誉教授も、県立富山中部高校の卒業生である。また、かつて沖縄で記者を
相手をしたオフレコ発言で首になった木村沖縄防衛施設局長もここの卒業生で
綿々と人材を輩出しているようである。