女の立小便考

論文の原題は「立念 居毛曾念」「饗宴のはじまり 西洋古典の世界から」所収
 中務哲郎 (岩波書店2003年)
1977年に同人誌に発表された文章が同書の最後に収められている。
「このように女の立小便の美風は現在尚完全に消滅してしまったわけではないが、
急速に衰えつつあることは認めざるをえないであろう。その理由として考えられる
のは、まず何よりも女がズロースを穿くようになったこと、次いでしゃがみ便器の
普及、そして羞恥心であるが、昔より今の女の方が慎みぶかいなどとは誰にも
信じられないから、これは理由にならない。むしろコツさえのみこめば出来る
ようになるというこのスタイルを、何事にもあれ修練に能耐えず易きに流れる
今日びの女性が敬遠しているからだと考えるべきではなかろうか。」
 著者(京都大学文学部教授)はこのテーマを追求するにあたり、わが南方熊楠
もちろんフランス映画「イマージュ」のマリー・メンダムの浴槽でのそのシーンまで
触れている。

保険業界の自由化

R.P.ドーア「幻滅」
「橋本行革と新自由主義への疑問」として市場主義の批判として
英国の保険業界の実例をあげている。
「競争と効率の関係は、(同友会のいうような)そう簡単なものではない。
護送船団方式の典型である保険業界を例に取れば、イギリスの経験が
参考になる。料金の規制を廃止し、申し合わせを禁止して競争の激化を
計れば、競争の武器である広告への費用がかさみ、競争心の激しさによる
インチキ売込みという悪弊、それを是正するための新しい規制、それを
施行する費用、その結果起こる、法廷での訴訟の費用がかさみ、社会的
費用・便益分析では、損である。」P199

白を黒という谷内正太郎

ロナルド・ドーア「幻滅」(藤原書店2014年)P222に次の
エピソードが紹介されている。
 安倍首相側近の谷内正太郎元外務政務次官が2013年1月11日
政策研究大学院大学のフォーラムで、安倍外交の全面的
展望について1時間講演したときに、ロシアと北方領土問題を
棚上げして2対2会議を開始したことに対して、ドーアアメリカからの
要請で中国封じ込めのために政策転換をした、と想定し、
「大きな外交転換のように見えるのだが、何故触れられなかった」
と聞いた。
谷内の返事は「包括戦略と関係のない、友好関係を築くひとつの試みで、さほど
大きな出来事ではなかった。中国とも2対2会議に向こうが乗り気であった
ら、いつでも応じます。」というものであって、ドーアはその後次のように
書いている。
「やはり、政治家で成功するのには、白を黒と平気で言えるたちの人でないと、
務まらない。」
 さて、その「白を黒と平気で言えるたちの人」について、7月号の「文学界」の
悪名高い?特集「反知性主義に陥らないための必読書」で谷内国家安全保障局長への
聞き書き「外交の戦略と志」を持ち上げている東大名誉教授の山内昌之である。
山内は
「日米同盟だけに依存し、日中友好を題目のように唱えていれば済む時代は
終わった。集団的自衛権が正式に容認されようとしている現在日本人も新たに
変わらなくてはならない。」と相変わらずのご託宣をのべ、われら無教養な
国民を𠮟咤激励する。ご本人はイラク戦争アメリカに騙されてやれやれと
煽ったことの反省は全くないのである。

追記
 山内の文章に富山の田舎で育った秀才が国家の行方を慮る能吏になったことを
たたえているが、この谷内という男も今安保保障法合憲論を唱えている西修駒沢
大学名誉教授も、県立富山中部高校の卒業生である。また、かつて沖縄で記者を
相手をしたオフレコ発言で首になった木村沖縄防衛施設局長もここの卒業生で
綿々と人材を輩出しているようである。

月の裏側

「月の裏側」日本文化の視覚 クロード・レヴィ・ストロース
著者の勘違いや、理解の浅さが訳者に指摘されている部分が興味深い。
・能の中の労働についての表現が、渡辺守章が限定的に説明したことを
拡大解釈して説明している。(月の隠れた面)
・西洋と日本を比較する時「遠心と求心」との対立として、「主語を
終わりに置く日本語の構造から鋸や鉋の使い方、陶工の轆轤の回し方、
針の糸の通し方、縫い方などの手仕事まで多岐にわたり、日本の職人は、
西洋の職人とは逆の動きを好むのだ。」(仙涯 世界を甘受する芸術)
としているが、訳者はこのように日本人の慣行についての初歩的誤認は
チェンパレンの「日本事物誌」の記述と日本での限られた見聞を過度に
一般化していることに由来している、としている。
・「日本の女性は、針に糸を通すのではなく、糸に針を通す。また、
着物の上で針を走らせるのではなくて、針をじっと持ったままで、着物を
走らせる。」上記と同様