大岡昇平と吉本隆明

吉本隆明「情況への発言Ⅲ」が新書版で出ているが、本屋で立ち読みした。当時も岩波本の埴谷雄高大岡昇平の対談について、吉本が何でこんなに怒るのか、さっぱり理解できなかったが、対談のご両人もいきなり吉本に怒鳴りつけられて、とまどったに違いない。吉本が安保騒動のときに警察に逃げ込み、「スパイとか」冗談に言われたのはよく知られたエピソードで30年も経ってから、怒鳴りつけるようなことではああるまい。吉本がいうように埴谷のアジア人からの「日本人は悪魔です」というような言葉を引用し、建売住宅のシャンデリアを揶揄するような旧式左翼理論が馬鹿馬鹿しいのは、誰の眼にも明らかだったが、それでも吉本が何故そんなに怒ったのか、さっぱりわからん。解説者はその辺の説明をする役割をすべきかと思うが、解説者である猫猫堂主人は、吉本の口ぶりを真似して、大岡たちを罵倒するだけで、その役を果たしていない。げに吉本の影響は恐ろしい。