みすず書房と私

みずず書房の新刊の4割は東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県で5割、関西で3割後はその他の地域で売れるという話が聞いたことがあるみすず書房の本に関心を寄せる人なんぞは地域的に偏在しているのだ。東京あたりのブックオフではまれにみすずとか岩波の本が、場合によっては105円コーナーに並んだりするが、地方では買う人がいない、、また買おうにも書店に並んでいないというのが現実なのだろう。私が最初にみすず書房の本を見たのは、小学生のときに、その校長が自ら授業をしてノーベル賞をとったばかりの朝永振一郎の「鏡の中の世界」を示しながら話をしたときだ。その本がみすず書房から出ていることを知ったのは大学へはいってからだが、その校長は大切なものを扱うようにパラフィン紙に包まれたその本を小学生の我々に示していた。小学生に朝永先生の偉大さがわかるはずもないのだが、それを伝えようとする校長の意気込みとみすず書房の本だけは奇妙に記憶に残っている。
 北陸の中都市の書店でみすずの新刊なんて並んでいるわけもなく、初めて買ったのは大学生になってからだ。レビィ=ストロースの翻訳だったような気がする。どの本も他の出版社の同じページ数の本より2割くらい高い。小尾さんという編集者がいて学者からも信頼を得ているということもわかった。暇にまかせて現代史資料なんて厚い本を図書館で棚から引き抜いて覗いてみたりもした。
 雑誌「みすず」1月号の読書アンケート特集号はいつも出るのが2月ごろになり、いつ神保町の岩波ブックセンターにならぶのか、編集部に問い合わせの電話をしたり、待ちきれずに本郷の東大近くの営業部へ直接買いにいったりもした。古本屋でみすずの本が並んでいてもそれほど割引になっていないこともわかってきた。
 棚の一角がみすずの白い背表紙の本で埋まっている。お見合い結婚の相方は学問とかに縁のない人であったが、最初のデートでみすずの表紙が白っぽいことを知っていた。古本業界に黒っぽい本、白っぽい本という言い方があるらしいが、黒っぽいが白い本ということになるのであろうか。