四方田犬彦

四方田犬彦の作り話というのは有名らしいが、こんな偽造もあった。初出では「吉本隆明」ではなく
「隆明」としか表記されていないらしい。

 「吉本隆明の名前を初めて知ったのは一九六九年、十六歳のときだった。(略)『COM』に掲載されていた、岡田文子の『邪悪のジャック』という漫画に、彼の名前が突如として登場していたのである。まずこの漫画について、簡単に説明しておこう。/舞台はどうやらパリらしい。どんな人間でも、その手を握るだけでたちどころに絶命させてしまうという、悪魔のような右手を持った少年がいる。彼は暗黒街の組織に雇われ、俳優やら著名人やらを、次々と暗殺してゆく。だがその手ゆえに、愛する少女を抱きしめることができない。少年は寝台に横たわり一人きりになると、呟くのである。「ぼくが真実を口にすると ほとんど全世界を凍らせるだろうという妄想によって ぼくは廃人であるそうだ」。/かっこいいなあ! この独白に「吉本隆明」と出典が添えられていたことが契機となって、わたしは『転位のための十篇』という詩集の存在に廻りあった。」(四方田犬彦吉本隆明と漫画」)。まず、冒頭のこれからして、うまい作り話じゃないのか。岡田文子の「邪悪のジャック」に使われていた吉本の詩の一節には「隆明」としか表記されていなかった。

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