歳月の鉛

四方田犬彦・歳月の鉛(工作舎)が書店で並んでいた。大学に入ってから、院を卒業するまでの
回想であるが、やはり学者や同級生のゴシップ満載。
 フランス語入門の教師であった蓮実重彦が授業中に「わたしが文部大臣になったら」とか冗談めいて
いっていたとか、吉本隆明の「言語にとって美とは何か」を罵倒していたとか、その時の授業に
一緒に出てみたくなる。
 当時の新左翼内部での凄惨な犠牲となった学生の思い出が語られている。当時駒場にいた学生は
なにやらただ事でないことが起こっていることを知っていたはずであるが、それについて
現在も語る人は少ない。役人になることや教養学科へ入学するするために{A]を取ることしか、頭に
無い人には何の関心もなかっただろうが、四方田氏は高校でバリケードをつくっていた人間として
当時起こっていたことのその重さを受け止めている。ただ、戦前の軍隊やオウムの例と絡めて、
組織と個人の関わりめいたことが書いてあるだけで、本当のことはよくわからない。石田英敬
あやうく内ゲバの襲撃から逃れ、助かったことも初めて知った。
 既に師であった由良君美との思い出を書いてしまったため、一書とするには分量が足りなかった
ためか、四方田氏がその当時書いていたノートの一部が記載されているが、こちらはあまり
面白くなかった。