外国で森鴎外と出会う

本郷図書館鴎外記念室第312回文学講演会
「外国で森鴎外と出会う、その特殊性と意味」
ーいまも「普請中」のベルリン森鴎外記念館25年の経験を踏まえてー
講師:ベアーテ・ヴォンデさん(ベルリン森鴎外記念館副館長)
http://www2.hu-berlin.de/Japanologie/mog/

 いつも若い人の聴衆が少ないのであるが今回はそれなりに若者も参加し、会場は
満員。

鴎外が下宿していた建物にベルリン鴎外記念館ができてから今日に至るまでの
「一人事務局」ヴォンデさんの悪戦苦闘のお話。何度も閉館の危機に会いながらも
旧東ドイツフンボルト大学や政府の支援で続いてきた経緯がよくわかった。
 
・文学は時代や国境を超える。
旧東ドイツ時代は、日本にとって、北朝鮮とともに日本のパスポートが通用しない
地域であり、帝国陸軍軍人であった鴎外の銅版を建物に掲げるのも難しかった。
・日本の外務省とドイツの製薬会社の出資による基金があるが、年間15000ユーロしか
利子がない。家賃だけで25000ユーロかかり、運営費は年10万ユーロかかる。
・昨年鴎外記念館が一時的でも閉鎖になったと聞いてショックだった。グローバル化
中で文京区で起こったことはベルリンにも影響があるからである。
・10年前に当時の文京区長と長谷川泉が來独の際に観潮楼の再建案を出したこともある。
・海外に存在する、日本人の人物のための記念館で、外国の公的機関によって運営が維持
されている、唯一の記念館
・ベルリンの当館はドイツで350の文学記念館があるが、外国作家のための唯一の記念館である。
・昔ゴーリキーがあったが閉館となり、チャールズブコフスキーのを作ろうという動きもあるが、
 現在外国人作家は鴎外のみ。
・鴎外は日本人にとってのアイデンティーの模索の対象。
・日本人の大方の意見はつぎのようなものではないか。「西洋は日本にとってあこがれであり、
 西洋文明をどのように移入し融合させていくのかという問題があり、これは鴎外にとっての
 問題でもあった。」
・日本の若い人がきて、日本人としての自己発見をしていくようだ。
中曽根元総理や鈴木元東京都知事をはじめ、いろんな方の訪問がある。緒方貞子さんは
ベルリンに寄った際には時間があると訪問してくれる。
石原都知事がベルリン国際陸上の間1週間ベルリンに滞在していたので、昼食の後でもぶらりと
そのうち来館してくれるだろうと毎日待っていたがついに来なかった。作家だから訪問されると
期待していたが。

 ヴォンデさん、文京区にも日本国にもベルリンの鴎外記念館を維持していくだけのお金はあるのですよ。
馬鹿な役人の天下り財団をボコボコ設立しているのに、ドイツでボランティア的に依存しているというのは
変ですね。「事業仕分け」で浮いた金の一部を回せばすぐに解決しますよ。
こういうことが日本の文化芸術にとって重要事だと思う政治家がいなくなったということは誠に嘆かわしい。
さすがに中曽根首相くらいまではそれくらいのインテリジェンスがあったのですが。
これまでの似非保守党は劣化して自滅したので、民主党にはぜひ日本の文化伝統を大切にしてもらいたいと
思います。日独双方で文明のために頑張りましょう。 

追記
 ヴォンデさんは、ベルリンの記念館を訪れた若者に鴎外の文庫をその場で渡されるとのことなので、今後同館を
日本から訪れる方は一山文庫本を持参して寄付しましょう。

それにしても来賓として来ておられた森家の方々をお見受けしたが、外見や雰囲気からもその遺伝子が受け継がれて
いるのに驚いた。