吉本隆明全集

 日曜日に池袋ジュンク堂の1階の支払カウンターの前にあった晶文社吉本隆明全集』の見本をもらった。最後のひとつであったようであるが、月曜日に岩波ブックセンターへ寄ったらこちらではまだ在庫があり、いくつか入手した。
 さて、吉本全集であるが、全38巻と別巻1であるが、「書かれたすべての著作を断簡零墨にいたるまで収録し」とあるが、300冊もあるらしい吉本の書いたものを全文収録しているとは到底思えない。それでもケイ草書房版著作集や大和書房全集撰に中途半端な思いをした読者からみれば、それなりの
体系となっているとはいえる。この程度のものさえ全国の公立図書館に収蔵されないとすると
情けない限りである。
 この見本では鶴見俊輔が推薦の言葉を寄せており、戦争直後に吉本と同様に太宰治に公演の依頼へいったことを書いている。上野千鶴子は、「大衆消費社会に迎合したしたともいわれたが、そしてオウム事件の時には麻原彰晃を擁護したり反原発運動に反発したりというフライングを犯したりもしたが、そういうふるまいの瑕疵はかれの業績を傷つけない。」といっているが、十分に傷つけているだろう。
 いずれにしても個別に出版された著作の生々しさが、読みやすい組版になって後世に残ることはそれなりに意義のあることであるが、同時代を生きてきたものにとっては、初出の書物がそれに取って代わるとは到底思われないのである。