憂い顔の「星の王子様」

岩波書店内藤訳「星の王子様」の欠陥ぶりを指摘する加藤晴久さんの快著(2007年5月初版)。内藤訳の著作権切れの後、13種類もの翻訳が出る馬鹿騒ぎとその程度の悪さにあきれて、さすが国際フランス語教員連合副会長としては黙っておれないということだろう。それにしても原文とそれをもとに逐一誤りを指摘していく著者の切れ味の爽快なこと。フランス語版の別宮教授というところであるが、訳者たちがフランス語原文をいかに「読めていないか」、よくわかる。へたなフランス語の教材を読むよりよほど勉強になる。
 光文社古典新訳文庫の訳者・野崎歓の「内藤訳による「星の王子さま」の素晴らしさに、いまさら異議を唱える余地などないだろう。多くの読者に愛され続けた、まさに歴史的名訳というほかはない」というゴマすりぶりを指摘し、加藤は「あらたに翻訳する作業の過程で内藤訳の「訳文の詳細にわたって検討する」ことをしなかったとすれば怠慢、したのなら「異論がでるはずだ」は無責任のそしりをまぬがれない。」と糾弾する。
 野崎訳スタンダール赤と黒」も誤訳の山であると別の学者が指摘をしているは有名。
      http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080608/acd0806080918004-n1.htm
      http://www.geocities.jp/info_sjes/newpage3.html
また、ロシア文学沼野充義毎日新聞2005年9月の書評「星の王子さま 新訳読み比べ」については、「作者と読者不在の空間で、同業者である物書き、外国語教師の仲間に仁義を切っているにすぎない。」この沼野という東大文学部教授は亀山訳「カラマーゾフの兄弟」でも同じ調子でヨイショをしていましたね。この翻訳のひどさについても論議がありますが。http://homepage2.nifty.com/~t-nagase/
 加藤さんのこの書にも紹介されている高田里恵子「文学部をめぐる病い」が指摘した「高学歴二流文化人」の心性は、変わらないらしい。
 岩波文庫の翻訳にもひどいのが多いが、こんな欠陥商品を50年にもわたって放置しておいた出版社の責任は重大であり、昨今の詐欺商法に近い。